マ・ドンソクは1971年3月1日韓国生まれ。15歳の時にシルヴェスター・スタローンの『ロッキー』(1976)を観て夢中になり、プロボクサーになるべくボクシングと体作りをはじめる。しかしほどなくして家庭の事情でアメリカの親戚の元へ移住。その頃には「アクション俳優になる」という夢も抱きながら、生活費を稼ぐために働き詰め。清掃業、皿洗い、バーテンダー、クラブの用心棒など人種差別にも苦しめられながらハードな仕事を多数経験した。
進学した大学では体育学を専攻し、パーソナル・トレーナーの仕事も始め、鍛え続けた身体は強く、大きくなっていた。そして肉体と同時に膨れ上がっていったのは、「アクション俳優になる」というかねてからの夢だった。そこで一念発起しオーディションを受け始め、韓国映画『天軍』(2005)に映画初出演。これを機に30歳で韓国に戻り本格的に俳優活動を始めることになる。しかし、体が大きすぎて役がないことから大幅な減量をしたり、TVドラマの撮影中に大怪我をしたりと苦労は続いた。広くその名が知られるようになったのは2012年の映画『隣人-The Neighbors-』の頃で、やがてマ・ドンソク+ラブリーで〈マブリー〉という愛称も浸透。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)の世界的ヒットで満を辞して大ブレイクとなった。同年には韓国コスメ「エチュードハウス」のCMでキュートすぎる水玉ピンクのエプロン姿を見せるなど〈コワモテな見た目に反してとてつもない愛嬌を炸裂させる〉という武器で観る者すべてをノックアウトしている。
40代後半になってからは主演作も続き、2021年にはマーベル・シネマティック・ユニバース『エターナルズ』でのギルガメッシュ役(ドン・リー名義)でハリウッド進出を果たし、〈韓国のドウェイン・ジョンソン〉とも呼ばれて世界中の映画ファンから愛される存在となった。
そんなマ・ドンソクだが、インタビューでは「アメリカ在住時代に多種多様な仕事に就いた経験が役作りや映画作りに生かされている」と苦労続きだった過去を前向きに捉えて語っている。その言葉通り、粗暴な悪役からナイーブな内面を持つ役まで体格同様に幅の広い演技をこなすことができる俳優として唯一無二の地位を確立している。
近年は映画製作にも積極的で、『犯罪都市』シリーズはもちろんのこと、ハリウッドにも制作会社も設立。主演作『悪人伝』(2019)は自身の出発点『ロッキー』からの憧れであるスタローンとの共同製作でハリウッドリメイクも進行中だ。一際大きな夢を抱いた男は、一際大きな身体を手に入れ、やがて身体に見合った大輪の花を咲かせた。本作をはじめとする海外を巻き込んだフランチャイズなどこれからの野望はさらに大きいようで、その動向からはまだまだ目が離せない。